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21世紀に響く、18世紀。 [2009]

さて、ハイドンのメモリアル... かなり盛り上がっている...
というところに、メモリアルならではの奇天烈な1枚が登場!パリに行ったことがないハイドンの、"Haydn à Paris(パリのハイドン)"。そのタイトルを初めて目にした時は、どういうことですか?となったのだけれど、未だ見ぬオーストリアの巨匠に熱狂するパリの音楽ファンと、音楽シーンの狂騒が描かれていて、おもしろい!今とはまったく異なるハイドンの置かれた風景にびっくりしつつ、古典派が活きの良かった頃に思いを馳せる。
というアルバム、ギィ・ヴァン・ワースが首席指揮者を務めるベルギーのピリオド・オーケストラ、レザグレマンによる"Haydn à Paris"(RICERCAR/RIC 277)。さらに、今なお古典派は活きがいい!を強烈に聴かせてくれるアルバム、フランス・ピリオド界の最も若い世代によるピリオド・オーケストラ、ジェレミー・ローレル率いるル・セルクル・ドゥ・ラルモニの、モーツァルトの25番、26番、29番の交響曲(Virgin CLASSICS/234868 2)。ハイドンのメモリアルに、刺激的な古典派、2タイトルを聴く。


18世紀、ハイドン狂騒...

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"Haydn à Paris"?パリのハイドンのはずが、パリから随分と離れた、オーストリアとの国境に近いハンガリー、エステルハージ侯爵家の夏の離宮、エステルハーザで演奏された作品が収録されていることに、何でだ?いや、これこそが、このアルバムの驚きであって、おもしろいところ。
何でも、パリでのハイドン人気は、もの凄かった!ある種の機会音楽、音楽による労働争議?「告別」(track.8-12)ですら、ハンガリーでの初演(1772)から年月を経て、パリ(1784)でも取り上げられたとのこと。そして、この「告別」を取り上げたのが、ハイドンをパリに紹介し、ハイドン・ブームを牽引したオーケストラ、ル・コンセール・スピリチュエル。これに対抗して、新たに創設されたオーケストラ、ル・コンセール・ドゥ・ラ・ロージュ・オランピクは、直接、ハイドンに交響曲(『パリ交響曲』)を委嘱して、対抗したのだとか。まったく以って、パリはハイドンがお気に入り... さらに、王妃、マリー・アントワネットがお気に入りだったのが、『パリ交響曲』の1曲、「王妃」(track.1-4)。パリのために書かれたハイドンの交響曲の華やかさたるや!熱狂も頷ける...
そうした、パリの熱狂は、とんでもない事態を生む。ハイドンでもないのに、「ハイドン」として出版される交響曲まで出現させたらしく... そんな1曲が、2つの真作に挿まれて取り上げられるクラウスの交響曲。スウェーデンのモーツァルト、隠れた天才の交響曲は、ハイドンに負けず魅力的なのだけれど、魅力的であればあるほど、「ハイドン」という名前で出せてしまう?という皮肉... が、偽ハイドンとして売り出されてしまったクラウスの交響曲は、下手にハイドンを真似るのではなく、クラウスらしさを発揮する。その終楽章(track.7)に響くサウンドは、ハイドンのさらに先にあるセンス... 19世紀の先駆としてのクラウスの興味深さを聴き取ることに。
しかし、高尚なはずの「交響曲」を巡って、こんなことになっていたとは... 古典派をこれまでとはまったく違う視点で捉えて、何だかウケる!のだけれど、そんな、非常に凝った選曲を聴かせてくれたヴァン・ワース+レザグレマンの演奏は、古典派の交響曲の構築感をしっかりと描き出していて、実直。気を衒うことなく、地にしっかりと足の着いた演奏が、かえってインパクトを生み、重量感すらある彼らのサウンドに改めて魅了されてしまう。もちろん、ピリオドならではのエッジも効かせて、パリを熱狂させた、エンターテイメントとしての交響曲も楽しませてくれる。という、見事な演奏と、驚きの構成、メモリアルならではの1枚!

Haydn à Paris

ハイドン : 交響曲 第85番 変ロ長調 「王妃」 Hob.I-85
クラウス : 交響曲 ニ長調 VB 143
ハイドン : 交響曲 第45番 嬰ヘ短調 「告別」 Hob.I-45

ギィ・ヴァン・ワース/レザグレマン

RICERCAR/RIC 277




21世紀、スリリング、モーツァルト!

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ヴァン・ワース+レザグレマンによるハイドンが、地に足の着いた演奏ならば、ローレル+ル・セルクル・ドゥ・ラルモニのモーツァルトは、危うさの漂うスリリングな演奏...
1曲目、25番の交響曲(track.1-4)、1楽章の、あのドラマティックなあたりを、好悪別れそうなギリギリの感覚で突っ走る。モーツァルトらしさ?なんてものに囚われないというのか、フランス・ピリオド界の、最も若い世代のオーケストラだけに、まさしく現代っ子感覚のモーツァルト。そうして響くのは、21世紀型のドラマティシズム?古典派の交響曲ならではの短調の悲劇性よりも、スリリングでサスペンスな感じ?テンポは当然ながら速く、印象的なアクセントを付けて、力強さを聴かせつつ、絞るところは絞って、鋭い演奏を繰り広げて来る。ローレル+ル・セルクル・ドゥ・ラルモニの演奏は、これまで、ダムラウのアリア集での好サポートが印象に残るのだけれど、25番の1楽章を聴けば、イメージは大いに変わる。もちろん、自分たちの初めてのアルバム、やりたいことをやったまでなのだろうけれど... インパクト先行?というくらいに大胆に踏み込んで、凄まじい印象を残す。
という、ヤリ過ぎ?も、26番、29番では、巧くはまるようなところもあって... 26番(track.5-7)では、イタリア風序曲のスタイル=オペラ風なあたりが、ローレル+ル・セルクル・ドゥ・ラルモニの大胆さといい具合にマッチし、彼らのオペラでの可能性を感じさせ、何とも魅力的な仕上がり。そして、29番(track.8-11)では、この交響曲の快活なあたりを、ポップに、それこそエンターテイメントに響かせて、そんなサウンドを浴びていると、思わず身体が動き出してしまうようなノリの良さ。ハイドンばかりでなく、モーツァルトでも熱狂しそう!
「クラシック」というステレオタイプにまったく引き摺られない、現代っ子感覚が生むリズミックさ、ノリが、他には無いモーツァルトの魅力となり... いや、もしかすると、これこそが古典派の時代の感覚にも思えて来る。ハイドンに熱狂したパリを考えると、より刺激的に演奏してこそ古典派の交響曲なのかもしれない。いや、最初に聴いた時は、正直、ギョっとさせられたけれど、ローレル+ル・セルクル・ドゥ・ラルモニの25番の1楽章は、間違いなくカッコいい!そして、そこに、21世紀のモーツァルト像が見えた気がする。それはまた、モーツァルトの真実の姿なのかもしれない。交響曲でも熱狂できるという...

MOZART: SYMPHONIES 25, 26 & 29
LE CERCLE DE L'HARMONIE /JEREMIE RHORER


モーツァルト : 交響曲 第25番 ト短調 K.183
モーツァルト : 交響曲 第26番 変ホ長調 K.184
モーツァルト : 交響曲 第29番 イ長調 K.201

ジェレミー・ローレル/ル・セルクル・ドゥ・ラルモニ

Virgin CLASSICS/234868 2




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