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フランス、鍵盤楽器のための音楽、カプリース... [2008]

フランスにおける鍵盤楽器のための音楽の系譜というのは、クラシックの中でも際立って瑞々しい存在感を放っている。古くは、クープラン(1668-1733)、ラモー(1683-1764)というバロックの大家がいて、楽器がクラヴサンからピアノへと切り替わると、フォーレ(1845-1924)、ドビュッシー(1862-1918)、ラヴェル(1875-1937)らが、すばらしい作品を残して... が、ラモーとフォーレの間はどうなったのだろう?クラシックの定番レパートリーに満足してしまうと、見えないものも多くあるのかもしれない。そこで、定番レパートリーから一歩踏み込み、ラモーとフォーレの間を覗いてみる。すると、そこには、思い掛けなく息衝く音楽があった!
クリストフ・ルセのクラヴサンで、ラモーの次の世代、ロワイエのクラヴサンのための小品集、第1巻(ambroisie/AM 151)と、クリスティーネ・ショルンスハイムのピアノで、ベルリオーズの前の世代、ボエリのソナタとカプリース(PHOENIX Edition/PE 127)を聴く。


ロワイエ、ロココの時代の、フランスにして、フランスに留まらない広がり...

AM151.jpg
ジョゼフ・ニコラ・パンクラス・ロワイエ(ca.1705-55)。
ブルゴーニュの出身で、サヴォイア公に仕えていた父(宮廷貴族的なポジションの人だったみたい... )の下、トリノで生まれたロワイエ。おぼっちゃまだったようで、職業としてではなく、趣味で音楽を始めるも、財産を残さなかった父の死により、音楽家の道を踏み出すことに... 間もなく、クラヴサン奏者、オルガニストとして腕を上げ、1725年にパリへ。音楽教師として生計を立てながら、オペラ座の楽長を務める(1730-33)までになり、1734年には、ヴェルサイユの宮廷でポストを得て活動。1748年からは、18世紀、ヨーロッパ中に知られたオーケストラ、コンセール・スピリチュエルの運営に携わり、フランス音楽のみならず、同時代のドイツ、イタリアの音楽を紹介、パリの音楽シーンを大いに盛り上げた。そんなロワイエが、1746年に出版したクラヴサンのための小品集、第1巻を聴くのだけれど... フランスにして、フランスに留まらない、広がりを感じさせるその魅力!
ラモー(1683-1764)がまだ健在だった頃だけに、ロココならではの麗しさに彩られ、フランスらしい繊細な美しさを放つ全14曲... が、同時代のドイツ、イタリアの音楽に関心を持っていたロワイエならではというのか、フランスらしさから大胆に逸脱するところもあって、なかなか興味深い。例えば、「眩暈」(track.11)、まさに眩暈を起こしそうな音楽?カール・フィリップ・エマヌエル・バッハを思わせる多感主義風の目まぐるしい展開にクラクラしそう... で、その激情に、ヴィヴァルディの嵐が過り、おおっ?!となる(ロワイエは、どこかで「四季」を聴いていたのだろうか?)。まさに、ドイツ、イタリアのセンスが、フランスに持ち込まれ、掻き回され、眩暈を起こしそうな音楽を生み出して刺激的!こうしたあたりに、ラモーにはなかった、次なる時代の新しさを感じ取る。
で、もちろん、フランスらしさも... 始まりの「ラ・マジェステューズ」の豪奢な佇まいは、まさにヴェルサイユ。続く、「ラ・ザイーデ」(track.2)のキラキラとした装飾音の繊細さは、これぞロココ。「レマブル」(track.6)の、何とも言えず耳を捉えるメランコリックなメロディーは、まさにフランスのメローさ... 一転、フォークロワなテイストを色濃く残すダンス、「タンブラン」(track.4)の元気いっぱいの陽気さ!この牧歌的なポップさは、フランス・バロックならでは... それから、「スキタイ人の行進」(track.14)の豪胆さもまたフランス・バロック!が、スキタイの荒ぶる雰囲気、疾走感は、現代的でもあり、何だかロックな様相も呈して、クール。フランスも、イタリアに負けず、バロック・ロックな一面を持っていたか... あるいは、ロワイエの外国趣味が反映されていたか...
という、盛りだくさんのロワイエを弾くルセが、また見事!そのタッチの力強さたるや!フランス・バロック/ロココのクラヴサンの音楽というと、どうしてもヴェルサイユを飾るお上品なイメージが先立ってしまうのだけれど、そういうイメージを物ともしないパワフルさに、ガツーンとブン殴られた思い。とはいえ、けして乱暴に弾き散らしているわけでなく、徹底して明晰さに貫かれてもいて... そういうクリアな視界から浮かび上がるロワイエの、より豊かな音楽像に、はっとさせられ... ルセならではのテンションを伴った透明感は、ロワイエの音楽でも大いに映える。それでいて、曲集がジリジリと盛り上がっていくような展開を見せて、ひとつひとつのナンバーはもちろん、曲集としてのドラマティックさにも魅了される。

PANCRACE ROYER CHRISTOPHE ROUSSET

ロワイエ : クラヴサン曲集 第1巻

クリストフ・ルセ(クラヴサン)

ambroisie/AM 151




ボエリ、ベートーヴェンの時代の、ドイツ―オーストリアへの無邪気な憧れ...

PE127
アレクサンドル・ピエール・フランソワ・ボエリ(1785-1858)。
フランス革命(1789)の4年前、宮廷で王族たちの音楽教師を務めていた父の下、ヴェルサイユに生まれたボエリ。その父から音楽を学び始め、やがて、オーストリア出身のピアニスト、ラドゥルナーに師事(革命により設立されるコンセルヴァトワールの教授を務めていたが、1802年に追放される... )。革命で混沌とする中、ピアノの技術を習得。革命がなければ、父を継ぎ、ヴェルサイユの音楽家として、順調にキャリアを積んだのかもしれない。が、革命がそれを阻んだ... いや、革命がなくとも、宮廷を自らの居場所とはしなかったかもしれない。ボエリは晩年になるまでポストに就くことなく、孤独に自らの音楽を追求し歩んで行く。そんな孤高の作曲家の興味深い点が、バッハやベートーヴェンといったドイツの音楽をフランスに紹介したこと... そして、その影響を多分に受けたボエリの音楽... それは、ベートーヴェンの時代を記録する貴重な音楽と言えるのかもしれない。
ということで、1810年に作曲された2つのソナタ、Op.1を聴くのだけれど... まずは、1番(track.1-3)、その冒頭から、ただならずベートーヴェン!いや、この出だし、ベートーヴェンのソナタのどこかで聴いたぞ?という具合に、ベートーヴェンそのもののような音楽が展開され、ちょっと面喰う... それも、"Op.1"という初々しさだろうか?あまりに無邪気なインスパイアの一方で、このソナタから10年を遡ると、ベートーヴェンもパリから影響(1800年にパリで初演されたケルビーニのオペラ『二日間』は、『フィデリオ』のひな型とも言える作品で... )を受けていたことを思い出す。19世紀初頭当時、パリとベートーヴェンの親和性のようなものがボエリにも表れているのかもしれない。一転、2番(track.24-26)となると、ベートーヴェンから一歩踏み出して、2楽章(track.25)の民俗調なあたりはウェーバーを思わせて、ロマン主義の到来を意識させられる。続く3楽章(track.26)では、モーツァルトを感じさせながらもシューベルトが聴こえるようで、まさに時代がうつろう瞬間を留めたよう... そして、このうつろいに、新しい時代が訪れようとする瑞々しい感性を見出し、何とも言えず惹き込まれてしまう。
さて、2つのソナタの合間に取り上げられるのが、1816年頃に作曲された30の奇想曲あるいは練習曲からの20曲(track.4-23)。ソナタの形式的なあたりが、ボエリをドイツ―オーストリアへと引き寄せたならば、より自由な奇想曲、練習曲では、フランスらしさがこぼれ出し... 1曲目、1番(track.4)の、朗らかに歌うメロディーからフランスらしく... そんな、メロディーの国、フランスの魅力を再確認される20曲は、クープランの記憶を遠くに感じつつ、フォーレの歌謡性を予感させるところもあって、なかなか魅惑的。1802年製、エラールのピアノの、ヴィンテージ感と相俟って、メランコリックな色合いを濃くし、思いの外、幻想的に響く。
そんなボエリを聴かせてくれたショルンスハイム... ソナタでは1808年製、エラール・フリューゲル(track.1-3, 24-26)を雄弁に鳴らし、奇想曲と練習曲では1802年製、エラール・ターフェルクラヴィーア(track.4-23)をファンタジックに響かせ、絶妙なコントラストを生み出す。いや、どちらも非常に強い個性を放つピリオドのピアノなのだけれど、見事に弾き分け... 紗が掛かったように、不明瞭になりがちなところを、果敢に掻き分けて進む大胆さと確かさは、脱帽するばかり。古いアルバムを捲るような雰囲気で包みながら、うつろう時代の一瞬を切り取る鋭さも見せるそのタッチに魅了される。

Alexandre Pierre François Boëly: Sonates et Caprices

ボエリ : ピアノ・ソナタ ハ短調 第1番 Op.1-1
ボエリ : 30の奇想曲あるいは練習曲 Op.2 から 20曲
ボエリ : ピアノ・ソナタ ト長調 第2番 Op.1-2

クリスティーネ・ショルンスハイム(ピアノ : 1808年製、エラール・フリューゲル/1802年製、エラール・ターフェルクラヴィーア)

PHOENIX Edition/PE 127




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