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太鼓でおしゃべり。 [2008]

OC716.jpg
パーカッショニスト。どうも取っつき難いイメージがある。いや、エヴェリン・グレニーとか、大活躍なわけだけれど... オーケストラにとって、パーカッションは欠かせないセクション。の一方で、パーカッショニストが前面に立つとなると、ウーン... というのが、正直なところかもしれない。当然ながら、響きの上ではストイックなイメージがあって(だって、太鼓だよ?!マリンバとかもあるけれど... )、パーカッションだけで音楽を成立させるとなると、かなり特殊なものに感じてしまう。けれど、キワモノ(っていうのは、失礼だよな... )は、好き!という、しょうもないスタンスから、ついつい手に取ってしまったパーカッションのアルバム。
何でも、ブーレーズも注目しているという若き逸材、パーカッショニスト、ヨハネス・フィッシャーのデビュー・アルバム。パーカッショニストにとって欠かせないレパートリーにして難曲、クセナキスのルボンを始め、"ゲンダイオンガク"の作曲家たちによる、叩くばかりでない?個性的で多彩な作品を集めた1枚、"Gravity"(OEHMS CLASSICS/OC 716)を聴く。

パーカッショニストによるソロ・アルバム... となると、やっぱりストイックなものになる。1曲目、クセナキスの"Rebonds A"の、太鼓による、単色の世界。飄々としているようで、複雑でもあって、プリミティヴにも響いて、掴みどころを探すのに、一苦労だったり。並べられた、多様な太鼓のサウンドは、なかなかおもしろいものがあるのだけれど、まだまだ、「叩く」というだけの単色の世界に、入り込むには至れないか... そこから一転、2曲目、ロペス・ロペスのヴィブラフォンのための作品、"Calculo secreto"(track.2)が響き出すと、空気が変わる。太鼓から、音階を奏でるヴィブラフォンへ... 何と言う鮮やかさ!太鼓の後では、ヴィブラフォンの残響の美しさが、より引き立ち、ロペス・ロペスが描き出す世界に、すーっと吸い込まれてしまう。3曲目、ピンチャーによる"nemeton"(track.3)では、多様な楽器が鳴らされて、さながらパーカッション博物館?いや、「パーカッション」と一言で括られてしまうものの、そこに存在している楽器はまさに無数... そうしたことを思い知らされるサウンドのパレットの広がりに圧倒される。そして、そのパレットから繰り出される、ピンチャーならではの、西洋音楽史から解脱してしまったような音楽世界... 何と言うか東アジア的?いや、改めてその音楽性に興味を覚える。で、4曲目、ドラックマンによる"Reflections on the Nature of Water"(track.4-9)は、マリンバが、まさにタイトルにある通り、水の性質を反映させて、マリンバ版、水の戯れのよう。多彩な表情を、思いの外、繊細に捉えて、美しい...
で、"Gravity"、最も印象に残ったのが、5曲目、グロボカールの"Toucher"(track.10)。叩くに留まらず、フィッシャーがしゃべりまくる!で、ナンジャアコリャア?!となる。えーっとですね、フィッシャーは、ナレーター・パーカッショニストとして、叩きながらしゃべるのであります。フランス語で、ブレヒトの戯曲、『ガリレオ・ガリレイの生涯』の台詞を語りつつ、自ら発する台詞の響き(というかリズム?)をパーカッションに落とし込んで、叩く。話し言葉を、そのまま音階に当てはめ音楽を紡ぎ出したライヒの仕事も興味深いものだったけれど、グロボカールは話し言葉をパーカッションで表現させ、言葉とシンクロさせるという離れ業... また、びっくりするほど台詞を追い切って、パーカッションでコピーし、まるでパーカッションに台詞を読ませてしまうような勢いのフィッシャーの表現力にも感服。凄い。いや、凄い。本当に凄い!一方で、それらを聴いていると、フィッシャーによる台詞、言葉の響きも、パーカッションのように聴こえてくるようで、おもしろい!これも、ある種、異化効果?聴こえて来る言葉と、それをコピーしたパーカッションの響きが重なるという、これまで体験したことのない音体験に、目が覚める思い!で、パーカッションと言葉の境界が揺らぎ、もの凄く不思議な感触を生む。それは、とてもユーモラスであり、言葉も打音も小気味良くリズミカルで、変に爽快。グロボカールの発想と、フィッシャーの凄技に圧倒されるばかり。
そんな、型破りを聴いた後で、最後、クセナキスの"Rebonds B"(track.11)が取り上げられるのだけれど、いやはや難曲。素人耳にも、難曲なのがよくわかる。だって、独りで演奏しているとは、思えない... で、独りだというから、凄い。けれど、その難しいあたりから刻まれるリズムのカッコよさと来たら!"A"とは違って、太鼓に期待する、太鼓ならではの魅力が前面に押し出され、しっかりと刻まれて行くリズムそのものに、大いに惹き付けられる。で、フィッシャーの、若いからこそのキレを感じるリズム感に惚れ惚れし、そのスーパー・テクニックに圧倒される。いや、侮れ難し、パーカッション!

Johannes Fischer Percussion Gravity

ヤニス・クセナキス : Rebonds A
ホセ・マニュエル・ロペス・ロペス : Calculo secreto
マティアス・ピンチャー : nemeton
ジェイコブ・ドラックマン : Reflections on the Nature of Water
ヴィンコ・グロボカール : Toucher
ヤニス・クセナキス : Rebonds B

ヨハネス・フィッシャー(パーカッション)

OEHMS CLASSICS/OC 716




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