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ヨーゼフ・マルティン・クラウスの華麗さ... 流麗さ... [2008]

CAPRICCIOが、突然、活動停止... 他では聴けない、興味深い作品を掘り起こし、いろいろ驚かされて、楽しませてくれたレーベルだけに、ガックリ。していたところに、うれしいニュース。CAPRICCIOで責任者(って、どういうポスト?)を務めていた、ヨハネス・ケルンマイヤー氏が、新たなレーベルを立ち上げるとのこと。CAPRICCIOの後継レーベルとなるのか?PHOENIX Editionがスタート。で、そのラインナップを見れば、アーティスト陣は意外にもゴージャスで、取り上げる作品はCAPRICCIOにも負けず... いや、よりマニアック?
ということで、そんなPHOENIX Editionから、ヨーゼフ・マルティン・クラウスのアルバムが2タイトルもリリース!それも、コンチェルト・ケルンで大活躍したヴェルナー・エールハルトが、新たに創設したピリオド・オーケストラ、ラルテ・デル・モンドによる演奏で... まずは、個性派、ソプラノ、ジモーネ・ケルメスが歌う、カンタータ集(PHOENIX Edition/PE 101)。ボン室内合唱団も加わって、劇音楽『アンフィトリオン』(PHOENIX Edition/PE 111)という、ここで聴かずして、どこで聴く?という、凄い2タイトルを聴く。


華麗なるコロラトゥーラ!クラウスのカンタータ。

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モーツァルトと同い年で、モーツァルトよりもひとつ長生きしたドイツ生まれの作曲家(と、このblogでは、度々、登場するクラウスだったり... )。モーツァルトと違うところは、スウェーデンに渡り、スウェーデン国王の厚い保護を受け、恵まれた環境で創作活動を続けられたこと。そうして生み出された音楽は、モーツァルトの陰に隠してしまうには、もったいないサウンドでして... 1曲目、劇音楽『オリンピア』の序曲は、クラウス作品において、最も有名なハ短調の交響曲の1楽章に似ていて... 重々しく、予兆めいた序奏から、悲劇的な表情で疾走する感覚は、クラウスならではのもの。魅了されずにはいられない。そして、クラウス発掘に大いに貢献したピリオド・オーケストラ、コンチェルト・ケルン、そのリーダー(コンサート・マスター)を務めた、エールハルトの指揮だけに、クラウスの音楽を心得て、目の覚めるような演奏を展開する。ラルテ・デル・モンドのサウンドは、切れ味鋭く、クラウスの音楽をよりドラマティックに響かせつつ、コンチェルト・ケルンよりも落ち着いたトーンで、劇的でありながらもしっとりとした風合いも聴かせる。また新たに、クラウスの存在を大いに盛り上げてくれるであろう、すばらしい演奏の登場に、聴く側のテンションも上がる!そして、この1曲目で、もうノックアウトだったりしてしまう。
が、メインは、ケルメスの歌う4つのカンタータ、「弁解」(track.2-5)、「春」(track.7-10)、「嫉妬」(track.12-17)、「漁師」(track.19-21)。ソプラノ、ソロのカンタータということで、どれもコンサート・アリアを拡大したようなイメージか。オペラティックで、モーツァルトの時代ならではの、美しいレチタティーヴォにアリアの数々に魅了される。クラウスには、交響曲の作曲家、というイメージがどこかにある(交響曲の他が録音されることは稀ということもある... )のだけれど、声楽作品においても、同時代の作曲家たちに聴き劣りすることなく、しっかりと聴かせる。特に、「春」の最後のアリア(track.12)のコロラトゥーラは、まさに超絶にして長大(まさに、ブラヴーラな時代!)で、時にエキセントリックにも感じなくも無いほど。いや、これぞ18世紀!その、10分を越える壮大な規模は、オペラ・セリアのフォーマルなアリアのようでもあり、充実した序奏に始まり、じわりじわりとドラマティックに盛り上げられて、それひとつが、まるでカンタータ。聴き応えは、十分過ぎるほど。なのだが...
歌うケルメスが、ちょっと気になる。この人の独特さは、もちろん魅力的なのだけど、クラウスのカンタータでは、その「独特」なあたりに慣れるまで、少し時間が掛ったか?彼女が独特であることを知っていても、久々に聴くと、わずかに違和感も。「漁師」(track.19-21)のような愛らしいカンタータでは、彼女の「独特」が、キャラクタリスティックな雰囲気を巧みに捉えて、間違いなく素敵... けど、ヴィブラートがわずかに気になる?コロラトゥーラも、いっぱいいっぱいなところもあるような... と、部分部分、ケルメスの歌に、ぼんやりともどかしさを感じたり。クラウスのカンタータを聴けただけで、十分に満足なのに、贅沢な欲求だが、他のソプラノでも聴いてみたくなってしまう。クラウスのカンタータがおもしろかった分。

JOSEPH MARTIN KRAUS ・ LA PRIMAVERA SIMONE KERMES ・ WERNER EHRHARDT

クラウス : 劇音楽 『オリンピア』 VB 33 序曲
クラウス : カンタータ 「弁解」 VB 43 *
クラウス : 劇音楽 『オリンピア』 VB 33 から ラルゴ
クラウス : カンタータ 「春」 VB 47 *
クラウス : 劇音楽 『オリンピア』 VB 33 から ラルゴ
クラウス : カンタータ 「嫉妬」 VB 46 *
クラウス : 劇音楽 『オリンピア』 VB 33 から アンダンティーノ
クラウス : カンタータ 「漁師」 VB 44 *

ジモーネ・ケルメス(ソプラノ) *
ヴェルナー・エールハルト/ラルテ・デル・モンド

PHOENIX Edition/PE 101




フランス風クラウス、流麗なる『アンフィトリオン』。

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劇音楽というものだから、いわゆる「劇伴」のようなイメージでいたら、これが少し違うようでして... モリエールの戯曲『アンフィトリオン』を上演するにあたって、4つのアンテルメード(幕間劇)と、ディヴェルティスマン(って、なんと和訳すべき?嬉遊曲ではない踊りの方で... )を、クラウスが作曲。それが1枚のアルバムに収まった、ということのよう。で、ふと思い返すのは、モリエールの『町人貴族』。モリエールの芝居に、リュリのバレ(バレエとはいえ、歌付き... )が挿まれて、ひとつの"コメディ・バレ"を成すような... クラウスも、そうしたイメージで、この4つのアンテルメードと、ディヴェルティスマンを作曲したのだろうか?というより、これが当時の流儀?芝居と音楽の距離感は、現代の劇場の感覚とは、若干、違ったのだろう。芝居があって、オペラ的な出し物が続き、バレエも踊ってしまう。ストイックにひとつのスタイルに絞ってしまうのではない、お楽しみは盛りだくさん!そんな感じ?
で、4つのアンテルメードなのだけれど... まさにフランス流、「アンテルメード」。ラモーのオペラ・バレを思わせる(といっても、その音楽は古典派のそれだが... )、牧歌的で、少しユルめの流麗さが印象的。最初のアンテルメードのアリア(track.5)の優美さなどは、フランス語を美しく引き立てて、見事なフレンチ・スタイルを聴かせるクラウス。スウェーデン国王のスポンサードを受けて、ヨーロッパ各地を巡り、パリにも長く滞在したクラウスならではの、フランス仕込みのフランス流だろうか?バレエでは、ふんだんに田園風のメロディ、リズムが織り込まれ、ラモーの、軽やかで陽気なバレエ・シーンを聴くようなところも。交響曲で聴かせる古典派ならではの端正さとは一味違う、よりやわらかな雰囲気に、クラウスの器用さというか、音楽性の幅というものを感じてみたり...
さて、演奏なのだが... カンタータ集、同様に、きっちりとした演奏を繰り広げるエールハルト+ラルテ・デル・モンド。ピリオド特有の、「角が立つ」ような感覚は抑えられ、綺麗に響きをまとめて... それでいて、十分にアグレッシヴでもあって、絶妙のバランス感覚で充実したサウンドを聴かせてくる。となると、コンチェルト・ケルン時代の尖がったエールハルトはもういないのか?それはそれで寂しくもあるのだけれど、クラウスでのより充実したサウンドは、コンチェルト・ケルンでの大暴れを凌駕する、確かな聴き応えをきっちりと届けてくれる。それでいて、フランス風クラウスの、端々からこぼれ出すエスプリの粋なあたりも、卒なく音にしていて、魅了される。それから、忘れてならないのが、最初のアンテルメードで活躍するソプラノ、サントンの明るくクリーミーな声が、たまらなく心地良い!流麗なメロディを澱みなくシンプルに歌い綴る美しさは、聴きどころ。歌う場面は少ないが、ポプルッツの軽やかなテノールも、何と爽やかな!そんな、すばらしいオーケストラ、歌手に恵まれての『アンフィトリオン』は、何か強いインパクトを放つことはなくとも、クラリティの高い美しさで楽しませてくれる。

JOSEPH MARTIN KRAUS ・ AMPHITRYON

クラウス : モリエールの 『アンフィトリオン』 のための 4つのアンテルメードとディヴェルティスマン

シャンタル・サントン(ソプラノ)
ゲオルグ・ポプルッツ(テノール)
ボン室内合唱団
ヴェルナー・エールハルト/ラルテ・デル・モンド

PHOENIX Edition/PE 111




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