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輝きのミニアチュール。 [2008]

BISSACD1573.jpg
とにかく、頭が下がる... というか、その徹底ぶりに、舌を巻く...
ソナタはもちろん、変奏曲までを丁寧に網羅した、モーツァルトのBOX(BIS/BIS-CD-1633)がリリースされて。今度は、ハイドンの全ての鍵盤楽器のための作品を収めたBOX(BIS/BIS-CD-1731)がリリースされる予定で... BISにて、壮大過ぎるほど壮大なシリーズを、フォルテピアノで、2つも成し遂げて来たブラウティハムの、現在進行中のシリーズが、ベートーヴェンのソナタのシリーズ(もちろん、フォルテピアノで... )。
その最新盤は、生気に充ちた音楽を繰り広げる、中期のソナタの名曲を取り上げる1枚... ロナルド・ブラウティハムが、1819年製、コンラート・グラーフ(レプリカ)で弾く、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、21番、「ワルトシュタイン」、22番、23番、「熱情」、24番、「テレーゼ」、25番、「かっこう」の、5つのソナタを取り上げるvol.6(BIS/BIS-SACD-1573)を聴く。

1曲目、「ワルトシュタイン」(track.1-3)が大好きでして... あの1楽章の疾走感、和音の連打のカッコよさは、たまらないものがある。けれど、モダンのピアノで聴くと、ちょっと響きが派手?それでいて、高音はキンキンしてくるような... そうしたあたりに、ぼんやりと不満があったのだけれど... 1819年製、コラート・グラーフ(レプリカ)で聴く、「ワルトシュタイン」は、何か、これまでになくナチュラル!ベートーヴェンの頭にあった響きは、これなのだなと、深く感じ入ってみたり(「ワルトシュタイン」は、1819年以前の作品ではあるのだけれど... )。
ベートーヴェンの作品を、ベートーヴェンの時代の楽器で弾くということは、最もピントが合った状態と言えるのかもしれない。モダンのピアノは見事な進化と洗練を遂げたことは事実だけれど、ベートーヴェンの時代のピアノが、ベートーヴェンの作品を捉えると、響きの派手さは抑えられ、響きそのものが整理されるようで、聴き易くなる。また、そうした響きに、どことなくヘヴィーな感覚もあって、その重さが生み出す落着きというのか、そこから繰り出される疾走感は、思いの外、安定感をも生み、この絶妙なバランスがたまらない。不安定に舞い上がってしまいそうだったイメージが、姿勢を低くして、よりスピーディーに駆け抜けていくカッコよさ。すると、ベートーヴェンの音楽の魅力は、また新たな輝きを以って際立ち、改めて「ワルトシュタイン」に惚れ直してみたり。この感覚は、10分に満たない小さなソナタ、22番(track.4-5)、24番(track.9-10)、25番(track.11-13)にも活き、有名なソナタのように身構えない何気なさに、心地よいスピード感を与えて、吹き抜けていくような爽快感が印象的だった。
フォルテピアノならではのトーン、セピア色の、どこか枯れたイメージすらあるはずの響きが、ブラウティハムによって、多彩に、綺麗に輝いて、音楽の輪郭をくっきりと浮かび上がらせ、細かいディテールまでがクリアにされていく。モダンのピアノでは、ハレーションを起こしていたような部分が、繊細に、綺麗に描き出されていく様は、発見も多く、ベートーヴェンの中期の作品の、灰汁の強さみたいなものを、ナチュラルに昇華させて、新鮮。そうして生み出される、繊細で豊かな表情は、瑞々しく、フォルテピアノならではのトーンを超えた、色彩の豊かさすら感じて、驚いてみたり。また、繊細さとともに、力強さも響かせて... 「熱情」(track.6-8)の、そのパッションも、見事に制御された"アパッショナータ"に仕上げ、ナチュラルにドラマティック。高まる感情の押し売りのようなことは、けしてあり得ない、結晶化したパッションの輝きに、酔わされてしまう。
"ピリオド"であることを、「枷」などと一切、イメージさせない、ブラウティハムの巧みさ... 改めて、感服させられる1枚。シリーズも、ますます勢い付いて、これから、さらにレベルアップした、後期のソナタへと入っていくことになるわけだが、ますます楽しみに!

Beethoven ・ Complete Works for Solo Piano (6) ・ Brautigam

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53 「ワルトシュタイン」
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第22番 ヘ長調 Op.54
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57 「熱情」
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 Op.78 「テレーゼ」
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 Op.79 「かっこう」

ロナルド・ブラウティハム(ピアノ : 1819年製、コンラート・グラーフ、レプリカ)

BIS/BIS-SACD-1573




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