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ナンカロウの遺志を継ぐ者たちによる、完全制御の際限のない世界! [2008]

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かつて、WERGOが、ナンカロウの"プレイヤー・ピアノのためのスタディ"を、全曲録音するという偉業(WERGO/WER 6907)を成して... 今、また、MDGが、それに乗り出して... が、MDGは、もう少しバラエティに富んで、プレイヤー・ピアノ(自動演奏ピアノ)で、もう少し遊んでみせる。例えば、ストラヴィンスキーやヒンデミット、アンタイルといった、ナンカロウ以前のモダニストによる、プレイヤー・ピアノのための作品を集めたアルバム(MDG/MDG 645 1404-2)だとか... で、最新盤は、ナンカロウ以後の現代の作曲家たちの作品を集めたアルバム、『ナンカロウの遺志を継ぐ者たち』(MDG/MDG 645 1406-2)。遺志を継ぐ者たち... まさに、という、ジェイムズ・テニーのサウンドから始まるのだけど、ナンカロウを意識しつつも、それぞれにスタンスは違っていて、際限のないプレイヤー・ピアノの世界が、ナンカロウの異形の世界から、さらに広がっていくようで、おもしろく... いや、極めて、おもしろいのです。これが。

まず、トム・ジョンソンの"プレイヤー・ピアノのためのスタディ"(track.3)。プレイヤー・ピアノならばできること... やってみたかったことをやってしまった... といった感覚が、クール!いや、馬鹿?究極のミニマル・ミュージックの究極的様。おそらく、全ての鍵盤を鳴らして、ジャン、ジャン、ジャン、ジャン... と、リズムを刻んでいくのだけれど、全ての音のスピードを、ほんの少しずつずらしていき。すると、やがてジャラジャラジャラ... と、クラスターのように。単純なズレが生み出すサウンド(果たして、音楽と呼べるのか?完全制御の悪戯?)なのだけれど、やがて元に戻るわけで。その、ぐるりと一周してくるグラーデションというか、ドラマティシズムというのか、元の位置に戻ってきた時の気持ちよさ、不思議感に、ヤラレタ... その一言。
だが、未来派などに造詣が深いピアニスト、ロンバルディによる"プレイヤー・ピアノのためのトッカータ"(track.3)は、かつてのイタリアのモダニスト(MDG 645 1404-2にも収録されている、カゼッラ、マリピエロあたり)たちが到達し得なかった、イタリア未来派的なサウンドを、具現化しているようでもあり。その、モダンでアヴアンギャルドな様は、20世紀前半のダイナミックな音楽を思わせて、なかなか聴き応えのあるものを聴かせてくれる。
一方で、やはりMDGにおいて、ジョン・ケージのピアノ全曲録音の偉業を成したピアニスト... にして作曲家、シュテッフェン・シュライエルマッハーが、プレイヤー・ピアノで仕掛ける作品は、まさに、プレイヤー・ピアノをプリペアしてしまうという... "プレイヤー・ピアノとプリペアド・プレイヤー・ピアノのための4つの小品"(track.5-8)。ケージの、人間の手だからこそ表現し得る、怪しげな、ガムラン的なイメージとはまったく違う、ガムラン・ロック!ガムラン・トランス?というのか... これがなんともクール!1曲目などは、ビョークにインスパイアされているとのこと... そんな現代っ子作曲家としてのシュライエルマッハーならではのセンスが、ある意味、ここに結晶化している感覚もあり。いや、カッコいい... が、その後の"プレイヤー・ピアノのための5つの小品"(track.9-13)では、人を喰ったような、いろいろな音楽(『星条旗』から、ウィンナ・ワルツから、クセナキス?まで... )が、プレイヤー・ピアノのロールにサンプリングされてしまって、なんだか、やりたい放題?いや、このパロディ、カオス、ウケる!本当にウケる!
で、最後は、あの、アムランによる作品。曲弾き(なんて言ってしまっては、語弊があるか?)の印象すらあるアムランだが、そのアムランをしても到達し得ない究極の曲弾きを、プレイヤー・ピアノに託した作品。とでも言うのか、これがまたおもしろく... ナンカロウ的、プレイヤー・ピアノの際限の無さ、という視点よりも、人間では到達し得ないテクニックを持ったピアニストとして、プレイヤー・ピアノを見つめているあたりが、技巧派ピアニスト(彼も、作曲家であるわけだけれど... )ならではのサウンドの妙味。

さて、プレイヤー・ピアノという特殊な楽器を使いながらも、それぞれが持つバック・グラウンドによって、そのスタンスの違いは、意外と明確で、まったく異なった音楽が生まれていて。ナンカロウの遺志を継ぐ者たち... とはいえ、プレイヤー・ピアノ=ナンカロウのイメージに収まらないあたりが、実に興味深く。また、ナンカロウにインスパイアされた現代の作曲家たちの作品を聴くと、逆に、ナンカロウが、なんといい加減に、ロールにパチパチ、穴を開けていたかを思い知らされたりして?いや、このアルバムに収められたサウンドも、十二分にキテレツ!なのだけれど、現代という視点に立って、エスタブリッシュされたパチパチは、なかなか鋭い響きを聴かせてくれる。

Player Piano 6: Piano Music without Limits

ジェイムズ・テニー : プレイヤー・ピアノのためのカノン
ジェイムズ・テニー : コンロン・ナンカロウのためのスペクトラル・カノン
トム・ジョンソン : プレイヤー・ピアノのための習作
ダニエレ・ロンバルディ : プレイヤー・ピアノのためのトッカータ
シュテッフェン・シュライエルマッハー : プレイヤー・ピアノとプリペアド・プレイヤー・ピアノのための4つの小品
シュテッフェン・シュライエルマッハー : プレイヤー・ピアノのための5つの小品
クシシュトフ・メイヤー : 2台のプレイヤー・ピアノとシンセサイザーのための放射する音
マルク・アンドレ・アムラン : プレイヤー・ピアノのための5声のソルフェッジェット 〔C.P.E.バッハによる〕
マルク・アンドレ・アムラン : ポップ・ミュージック?
マルク・アンドレ・アムラン : 2台のプレイヤー・ピアノのためのサーカス・ギャロップ

アンピコ・ベーゼンドルファー・グランド・ピアノ、アンピコ・フィッシャー・グランド・ピアノ

MDG/MDG 645 1406-2




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