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恐るべきこどもたち... による、"FIESTA"! [2008]

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クラシックからは、遥かに遠い地... ベネズエラ...
今、この南米の国が、クラシックから熱い視線を向けられている。エル・システマという、こどもたちへの高度な音楽教育が実を結び、世界中のクラシック・シーンに才能を発信する一大拠点に... その象徴が、指揮者、グスターボ・ドゥダメル。そして、エル・システマの結晶、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ。
ベートーヴェンの5番(Deutsche Grammophon/477 6228)、マーラーの5番(Deutsche Grammophon/477 6545)と、クラシックのど真ん中を立て続けに録音し、かのドイツ・グラモフォンからリリースした彼ら。それは、もう、センセーショナル!だったのだけれど、やっぱり聴きたかったのは、ご当地モノ。南米の魅惑的なレパートリー。いや、絶対に、若い音楽家たちの感性に、どんぴしゃのはず...
そして、彼らの3作目。待ってました、ご当地モノ!グスターボ・ドゥダメル率いる、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラによる、20世紀、ラテン・アメリカ世界の作品集、"FIESTA"(Deutsche Grammophon/477 7457)を聴く。いや、それはもう、期待をさらに越えている!

ユース・オーケストラの魅力... というと、何と言ってもその若さ!時に、若気の至り... というような、向こう見ずなところもあって、ディテールには、多少、傷があっても、勢いで圧倒されてしまい... いや、そういうところこそ、プロのオーケストラでは味わえない魅力かなと。が、近頃のユース・オーケストラは、そんな安易なものではなくなりつつある。プロのオーケストラでは不可能な、時間的余裕が生み出す、徹底的にひとつのプログラムを練り上げ、練習して、完成させられた、プロを凌いでしまう、精緻さが圧倒的で。シモン・ボリバル・ユース管も、当然、凄いものを造り上げていて... 最初の一音から目を見張る、"FIESTA"!
その1曲目、レブエルタスの名作、センセマヤ(1938)。マヤの昔の、非ヨーロッパ的なプリミティヴが呼び覚まされるミステリアスな作品。ユカタン半島あたりの密林で、怪しげな秘儀に出くわしたような、得体の知れなさがスリリング!なんて思っていたのだけれど、そうしたイメージは覆される?ドゥダメル+シモン・バリバル・ユース管の、思いの外、クリアな響きが、ミステリアスだった密林の霧を鮮やかに晴らして、これまでにない表情を掘り起こし、驚かせてくれる。レブエルタス(1899-1940)は、メキシコのストラヴィンスキーか?そのモダニストぶりは、ヨーロッパの同時代の音楽にまったく負けていないのだなと、改めて感心させられる。そんなレブエルタス像を引き出すシモン・バリバル・ユース管... ユースの勢い、ラテンのエモーショナルさとは一線を画す彼らの姿勢は、どこか分析的ですらあって、本当に「ユース」であるのか、疑わしく思えたりしてしまうほど。ドゥダメルもまた、「ユース」の仕事をしている... クラシックのメイン・ストリームから離れた仕事をしている... というような甘さは一切なく、自身をも育んだオーケストラへの信頼と、自身のアイデンティティたるラテン・アメリカ世界の生んだ作品への自信が、演奏のクウォリティの高さとして表れている。そうして、最高の輝きを見せる、"FIESTA"!
クラシックも、大西洋を渡ってしまうと、亜流?なんてことは、けしてない。20世紀、ますます先鋭的になってゆくヨーロッパ... 近代音楽のメイン・ストリームとは距離を取り、ラテン・アメリカの風景や、文化を、ダイレクトに取り入れ、それらをポジティヴに音楽とし... ディエゴ・リベラの壁画運動に通じるような、エリート主義に傾くことなく、より幅広い人々へと訴え掛ける音楽は、ヨーロッパにはない力強さを生むのか。"FIESTA"に収録された作品が放つ、生気に満ち充ちたサウンドは、本当に魅力的。そして、ますます多様化する21世紀においては、そういうラテンならではの個性、ジャンルを越えてゆくようなトーンが、さらに輝くよう。
マルケスのダンソン、第2番(track.4)の、実に素直に表現されたラテン・カラー... カステジャーノスの交響組曲「パカイリグアの聖なる十字架」(track.10)の、ラテンならではのノリ、盛り上がり... それはもう、クラシックのオーケストラにして、ラテンのビッグ・バンドのように魅惑的。こうした作品では、実に艶っぽいところも聴かせ、「ユース」であることを忘れさせてしまうシモン・バリバル・ユース管。かと思えば、若さが炸裂する、バーンスタインの"マンボ"(track.11)!その熱狂は、ラテン・アメリカのDNAレベルで繰り出されるような、本物感が凄い。一方で、"熱狂"ではあるのだけれど、一糸乱れぬアンサンブルに舌を巻き、その姿は、奇跡?いや、これぞ「ユース」の底知れなさか。恐ろしくクラリティの高い熱狂であることに、驚嘆せずにはいられない。しかし、恐るべきこどもたち... そのフィエスタ(祭り)は、ただならない。

FIESTA Simón Bolívar Youth Orchestra of Venezuela * Gustavo Dudamel

シルベストレ・レブエルタス : センセマヤ
イノセンテ・カレーニョ : 交響的変奏曲 「マルガリテーニャ」
アントニオ・エステベス : 平原の真昼
アルトゥーロ・マルケス : ダンソン 第2番
アルデマーロ・ロメーロ : 弦楽のための組曲 第1番 から フーガ・コン・パハリージョ 〔管弦楽版〕
アルベルト・ヒナステラ : バレエ 『エスタンシア』 Op.8 から
   農園で働く人々/小麦の踊り/大牧場の牛追い人/終幕の踊り(マランボ)
エベンシオ・カステジャーノス : 交響組曲 「パカイリグアの聖なる十字架」
レナード・バーンスタイン : 『ウェスト・サイド・ストーリー』 から "マンボ"

グスターボ・ドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ

Deutsche Grammophon/477 7457




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