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Alpha_esque [2006]

何気なくタワーレコードへ足を運んでみると、クラシック・フロアに、やたら『エスクァイア』があるので、不思議に思っていたら、クラシックの大特集。いや、『エスクァイア』が、クラシックを取り上げるの?!という驚きと、期待と、そして一応、不安と... なぜだか、変に慌ててしまって、立ち読みもせずに、一冊、持って、レジへ。
よく読む雑誌とは言えないけれども、"発見、クラシック音楽。"なんてタイトルを、表紙に見つけてしまうと、浮き足立ってしまう。どんな風に発見されているのか?自身の好きな音楽ジャンルが、どう語られているのか?普段ならば、アカデミックだとか、マニアックだとか、煙たがられるジャンルだけに、ページをめくるのはおっかなびっくり。と同時に、ステレオ・タイプなクラシックが、クラシックの真実ではない!なんて、フラストレーションを溜めてきただけに、『エスクァイア』という基準に適うだけの魅力が、この愛すべきジャンルに見出されたこと、密やかに、控え目に、うれしく思ったりもし...
そんな『エスクァイア』、クラシック特集の2大テーマが、「ロシアのピアニズム」と「古楽」。
随分とチャレンジング... そうしたら、「古楽」の特集で、今、最も気になるレーベルのひとつ、フランスの、Alphaが、大々的に紹介されているではないですか!古楽に軸足を置いたラインナップだが、古楽からワールドへ... というのも、このレーベルの真骨頂!で、おもしろいことをいろいろ仕掛け、何より、どのアルバムも極めてクウォリティが高い!そういう離れ業、クラシック界では唯一無二?こだわりが生むAlphaのオリジナリティは、現代感覚にもフィットして、センスは抜群。もっともっと注目されていいレーベルだと思うのだけれど... 『エスクァイア』、やはり目のつけどころが違うなと... いや、紹介されるべくして紹介されたか... これまで紹介できなかった既存のクラシック・メディアの限界を改めて考えさせられる。というあたりはさておき、Alphaの最新盤を聴いてみることに。
ヴェスヴィアス、かくして噴火!疾風怒濤にして多感極まる、C.P.E.バッハのフルート協奏曲集(Alpha/Alpha 093)と、ヴァージナルとチェンバロ... 実に豊かな、英国式、ルネサンス鍵盤楽器作品集(Alpha/Alpha 086)の2タイトルを聴く。


疾風怒濤にして多感極まる、C.P.E.バッハのフルート協奏曲集。

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大バッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)の音楽は、過渡期の音楽... 18世紀の音楽をこれまで通り分かり易く、バロック、そして古典派に区切って説明するならば、まさに過渡期の音楽だろうが、アレクシス・コセンコのフラウト・トラヴェルソ、ポーランドのピリオド・オーケストラ、アルテ・デイ・スオナトーリの堂々たる圧巻の演奏で聴けば、「過渡期」なんて言わせない存在感を示し始める。これぞ「疾風怒濤」であり、まさに多感主義!バロックの息子で、古典派の兄、ならば、当然、バロックの名残りもあって、古典派へとつながるものも見出すわけだが、圧倒的な勢いと、ころころと変わる表情、そして、グっとメランコリーに染まる緩徐楽章... アルテ・デイ・スオナトーリの演奏は、カール・フィリップ・エマヌエルの強い個性をそのまま響かせて、とにかく魅力的!
鈴木秀美氏が首席客演指揮者を努めることで、その名を知り、ポッジャーのヴィヴァルディ、『ラ・ストラヴァガンツァ』(Channel Classics/CCS 19598)が話題になり、気になっていたアルテ・デイ・スオナトーリ... いやいや、驚かせてくれる!クウォリティの高さと、ピリオドならではの熱っぽさと、鋭さ、キレ、そうして、実に豊かな表情!西欧のピリオド・オーケストラに、まったく引けを取らない。どころか、このアルバムで、ノックアウト。もちろん、フルートのための協奏曲集ということで、主役は、アレクシス・コセンコの吹くフラウト・トラヴェルソ。コセンコもすばらしい演奏を聴かせてくれるのだが、耳は、つい、その後ろへ... 1曲目、Wq.169のフルート協奏曲、ゴージャスな序奏から、グイグイ惹き込まれてしまう... いや、コセンコもすばらしいのだけれど...
そうして、詳らかとなるカール・フィリップ・エマヌエルの音楽が放つ、めくるめくおもしろさ!父、ヨハン・セヴァスティアンとは、明らかに違う... いや、そこでは絶対にあり得ないドラマティックさ... Wq.22のフルート協奏曲、終楽章(track.9)なんて、ジャケットにあるヴェスヴィオ火山(ヴォレール画、『ヴェスヴィオ火山の噴火とポルティチの景観』、1771年作、ナント美術館蔵... )そのもの!火を噴く、感情の噴火!今さらながらに、カール・フィリップ・エマヌエルに魅了される。

BACH (CPE) Concerti a flauto traverso obligato -I
Alexis Kossenko - Arte dei Suonatori


カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : フルート協奏曲 ト長調 Wq.169, H.445
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : フルート協奏曲 変ロ長調 Wq.167, H.435
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : フルート協奏曲 ニ短調 Wq.22, H.425

アレクシス・コセンコ(フラウト・トラヴェルソ)/アルテ・デイ・スオナトーリ

Alpha/Alpha 093




ヴァージナルとチェンバロ... 実に豊かな、英国式、ルネサンス鍵盤楽器作品集。

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ウィリアム・バード(1542-1623)、ピーター・フィリップス(1560-1628)、ジョン・ブル(1562-1628)...
イギリスのルネサンスの最後の頃、シェイクスピア(1564-1616)の時代に活躍した作曲家たちの、鍵盤楽器のための作品を、ベルトラン・キュイエが、ヴァージナルとチェンバロを用いて、しっとりと、時にファンタジックに聴かせてくれるアルバム、"Pescodd Time"。
まず、始まりの、バードによるファンタジア MB.64... ヴァージナルの音が何とも言えない。魔法の掛かったオルゴールの蓋を開けてしまったような... そんな感覚?フェルメールの絵にもよく登場するヴァージナル。チェンバロが四角になったやつ?なんて説明もありかもしれない。が、響いてくる音は明らかにチェンバロとは違う。聴き慣れないサウンドのせいか、とても不思議に思えて。それでいて、ぽっと温か。そんなヴァージナルの響きを聴いていると、夜、揺らめく蝋燭の火を、ぼんやり見つめるような、夢見心地な気分に。すると、チェンバロが鳴り出して、はっとする。目が覚めたように、輪郭のくっきりとしたサウンドが、キラキラと輝き出し、また別の世界へと誘う。似て非なる2つの楽器... 交互に奏でることで(1曲ごとではないのだけれど... )、その個性がより際立つよう。そうして奏でられる、作品が魅力的でして...
ルネサンスの古風さに、イギリス独特のキャッチーさというのか、どこかフォークロワなテイストが加わり、ノスタルジックで、親密で、何とも言えない人懐っこい音楽が紡がれてゆく。一方で、バードによるファンタジア MB.62(track.12)の、バッハを思わせる対位法... ブルによる「王の狩り」(track.13)の、ラモーを聴くような華々しさには、次なる時代を感じ、興味深く。親密さの中にも、実に豊かな音楽世界が広がる。そうした魅力的な作品の数々を、凛とした美しさで捉えるキュイエの演奏。器用に、ヴァージナル、チェンバロを弾き分けつつ、アカペラによる美しいポリフォニーのイメージが強いイギリスのルネサンスの音楽に、鍵盤楽器あり!といった意気込みのようなものも感じさせ、その美しさには、説得力がある。
そうそう、おまけにボーナス・トラック(?ていうか、最後のバードによるパヴァン MB 23aの後で、もう1曲... )があったりして、隠し味には、遊び心も... とても素敵な1枚に仕上がっている。

BYRD Pescodd Time
Bertrand Cuiller


バード : ファンタジア MB.64 *
バード : 女王のアルマン *
ブル : イン・ノミネ *
バード : パヴァン MB.16a *
バード : ガリアード MB.16b *
バード : 3つのフランス流コラント *
フィリップス : 悲しみのパヴァン *
フィリップス : 悲しみのガリアード *
バード : グラウンド MB.9 *
バード : 豆が実る季節/さあ狩りだ *
バード : モンティーグル夫人のパヴァン *
バード : ファンタジア MB.62 *
ブル : 王の狩り *
バード : パヴァン MB.23a *

ベルトラン・キュイエ(ヴァージナル */チェンバロ *)

Alpha/Alpha 086




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