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spiritus renovatur [2006]

9.11で幕を開けた21世紀、世界も社会もあまりに殺伐としていて... そんな現実からトリップするために、今、現実を超えた"何か"を求め始めいる?近頃、「スピリチュアル」という言葉を聞かない日はない。現代人が21世紀をサバイヴしてゆくのに、「スピリチュアル」は、人生における最高のスパイスか... あるいは、ひび割れた現実を埋める補強材だろうか... そもそも、現実そのものが、今や超現実だ。そんなシュール・リアルな時代に、音楽にもスピリチュアルを求めてみる?いや、本来、音楽こそスピリチュアルなものだったはず。
ということで、フランセス・マリエ・ウィッティのチェロと、クリストフ・ポッペン率いる、ミュンヘン室内管弦楽団によるシェルシのアルバム"Natura renovatur"(ECM NEW SERIES/476 3106)と、コンラート・シュタインマンが再現した古代ギリシアの音楽を、アンサンブル・メルポメンが奏でるアルバム"MELPOMEN"(harmonia mundi FRANCE/HMC 905263)の2枚。近代に在って、近代に背を向けたイタリアの謎めく存在、シェルシと、音楽が今よりもっと壮大なヴィジョン(宇宙!)を以って紡ぎ出されていた、古代ギリシアの音楽を聴く。


ノイジーな中のポエジー?シェルシ...

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アヤラ・ヴァルヴァ伯、ジャチント・シェルシ(1905-88)。
イタリアの貴族の家に生まれ、その豊かな財産を背景に、音楽マーケットはもちろん、音楽界そのものから距離を取り、徹底して独自の音楽世界を育んだ異端の作曲家。イタリア未来派から出発し、12音技法に取り組み、やがて後のスペクトラル楽派に大きな影響を与える、ノイジーな音響の世界を切り拓く。そして、その独特さは、ただならない。多様化、複雑化を極める20世紀の音楽にあっても、その独特さは異様。近代音楽から現代音楽へ... という奔流とはまったく違う場所に生まれた音楽は、見落とされがちの一方で、その音楽は圧倒的な存在感を響かせる。またそれが、ショスタコーヴィチよりひとつ年上の作曲家によって生み出されていることに驚かされる。
というシェルシを、その晩年、密接なリレーションシップを築いていたという、チェロのウィッティ。ECMで何かとおもしろいことをしてくれる指揮者、ポッペンと、彼が芸術監督を務めるミュンヘン室内管の演奏で取り上げるアルバム"NATURA RENOVATUR"。チェロ独奏の作品と、弦楽アンサンブルの作品が、交替しながら進められる構成は、絶妙なバランスでシェルシの音楽世界を描き出し、ECM的センスをしっかりと感じさせる仕上がり。
ノイジーな中のポエジー?さざめきと、ざわめきが織り成す心象風景?霧の中、足下もおぼつかない葦原を、ただただ分け入って進んでいくような感覚。不可解さを感じながらも、いつのまにやら深く深く、その音楽世界に入り込んでしまい。次第に耳が慣れ、その感覚が研ぎ澄まされてゆくと、さざめきや、ざわめきが、心地良く纏わり付いてくるよう。すると、うっかり魂が彷徨い出ていってしまいそうな... 幽体離脱、一歩手前?妙な心地にさせられる。シェルシは、スピリチュアルなものに関心があったらしいが、この孤高の作曲家の紡ぎ出すサウンドというのは、「スピリチュアル」的というより、スピリチュアルな作用をもたらしてしまいかねない、ただならぬ雰囲気がある。
そして、このアルバムをより鮮烈に印象付けるのが、ウィッティのチェロ独奏で奏でられるアヴェ・マリア(track.2)と、アレルヤ(track.8)。一転、素朴な、本当に素朴としか言いようがない古い祈りの歌を、チェロが歌出だす。それまでとはまったく違う音世界が、いつかの残像のように漂い... その、救いのようで救いのこないリフレインが、意味深でもあり。やっぱり、シェルシは独特。いや、後を引きそう。

GIACINTO SCELSI NATURA RENOVATUR

シェルシ : Ohoi 〔16の弦楽器のための〕 *
シェルシ : Ave Maria 〔独奏チェロのための〕 *
シェルシ : Anagamin 〔12の弦楽器のための〕 *
シェルシ : Ygghur 〔独奏チェロのための〕 *
シェルシ : Natura renovatur 〔11の弦楽器のための〕 *
シェルシ : Alleluja 〔独奏チェロのための〕 *

フランセス・マリエ・ウィッティ(チェロ) *
クリストフ・ポッペン/ミュンヘン室内管弦楽団 *

ECM NEW SERIES/476 3106




イニシエの不思議な懐かしさに包まれて... 古代ギリシア。

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古楽の名門、バーゼルのスコラカントルムによる、"DOCUMENTA"のシリーズによる1枚。そのスコラカントルム、リコーダーの教授、コンラート・シュタインマンが、紀元前5世紀、アテネ、全盛期の頃の音楽の断片を集め、当時の音を再構成、再現したアルバム。となると、学究的な気難しさが先行するのかと思いきや、そこは「音楽」、背景には気難しいものがあったとしても、スピーカーから流れてくるものは、必ずしも気難しいとは限らない。どころか、もう、これがまったく以って不思議な懐かしさでいっぱい!
シュタインマンをディレクターに、アリアンナ・サヴァールも参加する、アンサンブル・メルポメン。ミューズ(ムサイ)のひとり、悲劇を司り、竪琴(リラ)の女神でもあるメルポメネの名を冠した古楽アンサンブル... その演奏は、「古代ギリシア」のイメージを超えて、独特のイニシエ(古)感で、聴く者に寄り添ってくる。風の音で始まるこのアルバム、どこかシェルシの時のように、心象風景の中を彷徨うような感覚がある(音楽そのものは、まったく異なるわけだが... )。誰もが何処かで耳にしたようなメロディ... いや、ばあちゃんの世代くらいまでは歌い継がれていただろう、素朴な子守唄のような... 21世紀になり、直接、耳にすることは少なくなったとしても、身体の何処かで覚えているような旋律が、「古代ギリシア」から聴こえてきたことに驚かされる。子守唄だけでない、お囃子までも...
世界遺産のシンボル、パルテノン神殿の威容、豪華な地中海リゾート、紺碧のエーゲ海からは、あまりにも遠い素朴過ぎるこのサウンド。そして、遠いはずのかの地、かの時代のサウンドに、これほどの親近感、懐かしさを覚えてしまう不思議。もちろん、その後の地中海文化圏サウンド(アリアンナのパパらが得意とするあたり... )のルーツを感じ、最新の考古学から読み解かれつつある、オリエンタルな古代ギリシアの文化を垣間見せるエキゾティックさもある。あるいは、スフィンクスの謎解きや、ミノタウロスのラビュリントスを思い浮かべるような、ミステリアスなサウンドも... が、この懐かしさ!印象的な、アリアンナ・サヴァールの乳白色の声が、その懐かしさをより深め、時折、切なくすらなってしまう... もしや、前世の記憶?で、シュタインマン教授が再構成し、再現したこのサウンド、2500年前のアテネの人々が聴いたなら、どんな風に感じるのだろう?

Melpomen ・ Musique de la Grèce antique ・ Conrad Steinmann

コンラート・シュタインマン再構成による古代ギリシアの音楽

アンサンブル・メルポメン
コンラート・シュタインマン(ディレクター/アウロス)
アリアンナ・サヴァール(ソプラノ/バルビトス)
ルイス・アルヘス・ダ・シルヴァ(カウンターテナー/キンバラ)
マッシモ・チアルフィ(打楽器)

harmonia mundi FRANCE/HMC 905263



シェルシと古代ギリシア... 何気なく聴いてみたら、何やら不思議体験。もちろん、具体的に何かがあったわけではない(霊感、少な目なもので... )のだが、スピーカーから流れてくる音に、ただならぬ空気を感じ。で、シェルシと古代ギリシアに同じ空気を感じたような... 音楽に、音楽以上の何かが込められた音楽?




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