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始まりに還り、始める。 [2005]

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クラシック=西洋音楽史の始まりはいつ?
となると、グレゴリオ聖歌となるのだろう。が、グレゴリオ聖歌に始まる壮大なる音楽史を丁寧に辿ってみると、大きな転換点がある。クラシックのアイコン、バッハの存在?クラシックのシンボル、交響曲の誕生?あるいは、音楽を貴族から市民へと解放(という近代史観は、もう古い?)したフランス革命?それまで連綿と育んできたものをブチ壊した12音技法の発明?よくよく見ると、転換点はいろいろ存在する。が、現代、我々が聴き馴染んだ音楽から音楽史を振り返るならば、ルネサンス末、モノディの登場こそ、大きな転換点であり、我々が聴き馴染んでいる音楽の始まりと言えるのではないだろうか?ポリフォニーからモノディへ... 多声からひとつの旋律が掬い上げられて、音楽により具体的な形が与えられたこの革新こそ、最も大きな転換だったのでは...
という、モノディが登場した頃に遡って、このblogの始まりのアルバムとしたい。ルネサンスのポリフォニーから脱し、新しいスタイル、モノディを用い、新しい時代、バロックの幕開けを飾る記念碑的作品、音楽史上、最初のオラトリオ。クリスティーナ・プルハル率いる、気鋭の古楽アンサンブル、ラルペッジャータを中心に、マルコ・ビーズリー(テノール)、ドミニク・ヴィス(カウンターテナー)ら、個性派歌手も参加して繰り広げられる、カヴァリエーリのオラトリオ『魂と肉体の劇』(Alpha/Alpha 065)を聴く。

オラトリオ、それは教会や修道院の祈祷室とのこと... で、この祈祷室で演奏された宗教的題材による劇的な声楽作品が、音楽における"オラトリオ"となる。カトリックによる対抗宗教改革の運動のひとつ、フィリッポ・ネーリ(1515-95)により、1564年にローマで創設された、市民を改めて教化しようという祈祷会、オラトリオ会が、その活動の中心に音楽を据え、やがて"オラトリオ"というスタイルに至る。そして、音楽史において、最も重要な作品のひとつ、記念すべき世界で最初のオラトリオ、カヴァリエーリ(ca.1550-1602)の『魂と肉体の劇』を聴くのだけれど... 今では最初のオラトリオとは見なされない?
カヴァリエーリは宗教的な音楽劇としてこの作品を"上演"したらしく、それは音楽劇であって、演じることはないオラトリオとは一線を画す?ということらしい。が、『魂と肉体の劇』は、1600年にオラトリオ会の総本部があったオラトリオ・デッラ・ヴァッリチェッラで初演されているから、何ともまどろっこしい。しかし、その音楽史における重要な位置付けは、揺らぎようがない。ルネサンス末、フィレンツェにおけるオペラ誕生を準備したカメラータ(ギリシア悲劇を研究した文化人たちの集い... )のすぐ近くにいたであろうカヴァリエーリ。世界で最初のオペラ、『ダフネ』(1597)にも触れただろう。そして、当時のフィレンツェの楽壇の熾烈な競争を嫌い、故郷、ローマへと帰った作曲家は、ローマで音楽劇を試みた。それが、『魂と肉体の劇』。フィレンツェのライヴァルたちのオペラを凌ぐ力作は、ルネサンスを脱し、まさにバロックの幕開けを告げる力強い音楽を繰り広げる。
まず、重々しく古風なシンフォニアが印象的で。魂と肉体の... なんていう物々しさそのままに、現実を越えた恐るべき世界がこれから始まるかのような、畏れと興味を掻き立てる雰囲気が立ち込めて。続く、インテルメーディオとして挿入されるスザートのパッサメーディオ(disc.1, track.2)の、コルネットが歌う、うら悲しいメロディは、魂が漂う冥府に響き渡るようで、何とも言えない心地にさせられる。そこから、まず"時"が歌い出し(disc.1, track.3)、劇の幕が上がるのだけれど、その"時"(寓意劇ということで、登場人物はみな擬人化されたキャラクター... )を歌うのが、鬼才、地声テノール、ビーズリー... まるで時報を刻むようなチェンバロ(だと思うのだけれど... )の音に導かれ、彼ならではの地声が生み出す切々とした表情は、意表を突き、『魂と肉体の劇』の世界へと引き摺り込むような静かな迫力がある。そうして、引き摺り込まれた先に広がる世界なのだが... 思い掛けなく盛りだくさん!始まりの物々しさばかりでなく、陽気なダンスあり、ユーモラスなシーンあり、コーラスを巧みに用いておどろおどろしくしてみたり、ルネサンスのポリフォニックさも残り、カヴァリエーリがフィレンツェで培ってきた新旧、あらゆる種類の音楽を集大成する充実ぶり。この作品に掛けた意気込みが伝わる。
この盛りだくさんの音楽を、見事に描き切るプルハル+ラルペッジャータ!まず、古楽器だからこその味わいを大切に、ひとつひとつのナンバーを丁寧に響かせて生まれる、豊かな表情に魅了される。プルハルのみならず、メンバーのひとりひとりの並々ならぬ音楽性が、遠い昔の作品を、今まさに初演されるかのような、生々しい空気感で包んで、21世紀に在って独特の臨場感を生み出してしまう。もちろん、古楽ならではの鄙びたサウンド、古雅な気分もある。が、それだけに留まらない、もうひとつ踏み込んでくるプルハルのセンス... 鄙びて、古雅で、そうした魅力をベースにしながらも、生きた音楽を展開するアグレッシヴさ!それらをより際立たせるのが、ビーズリー(テノール)や、ヴィス(カウンターテナー)といった個性極まる歌手たちの存在。ベルカントが生み出される以前の、より自然体の歌声が織り成したであろう音楽劇の、真実に迫るキャスティングというのか。オペラティックではない歌声が繰り広げるからこそ、骨董品には終わらない、かつての活き活きとした魅力が蘇る。すると、それは、一級のエンターテイメント!オラトリオ会による、祈祷室での説教臭い音楽劇?そういう先入観もあるかもしれないが、新教から旧教へ信者を奪還しようと躍起になっていたカトリックにとって、そのエンターテイメント性は、切実なものだったのかもしれない(バロック期の宗教画のドラマティックさにも見て取れる?)。そうしたものを素直に掘り起こし、提示したプルハルの大胆さ。この『魂と肉体の劇』は、資料的な価値を越えて、1600年、刺激的だったローマの祈祷室を追体験させてくれる。

CAVALIERI
Rappresentatione di Anima, et di Corpo
L'Arpeggiata - Christina Pluhar


カヴァリエーリ : オラトリオ 『魂と肉体の劇』

魂 : ヨハンネット・ゾーメル(ソプラノ)
時/肉体 : マルコ・ビーズリー(テノール)
知性 : ヤン・ファン・エルサッケル(テノール)
忠言/世界 : ステファン・マクラウド(バス・バリトン)
快楽 : ドミニク・ヴィス(カウンターテナー)
守護天使 : ヌリア・リアル(ソプラノ)
俗的生活 : ベアトリス・マヨ・フェリプ(ソプラノ)

クリスティーナ・プルハル/ラルペッジャータ

Alpha/Alpha 065




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